石少Q

けし粒のいのちでも私たち

委員長がリアルを愛しているから

 

2月に入ってから「雲隠れ」していた委員長、その理由は「にじさんじのことを考えない日を作りたくなったから」でした。しかしその声にあまりネガティヴな色は無く……。

かねてよりつけていた「やりたいことリスト」のデータが飛んでしまい、また一から列挙を始めた委員長は、そのラインナップがその気になれば今すぐにでも出来ることばかりだと気づき、新しいことに挑戦しなくなっていた自分に「ちょっとヤバいな」と思った……というのがお休みに至る流れで、ニュアンスとしては宇多田ヒカルの「人間活動に専念」に近い感じでしょうか。

いま書き起こしてて思いましたけど、こんなにはっきりと思考の流れを言ってくれるの凄いですね。「茶番で全てを煙に巻くのも考えたよ!」とも言っていましたが、それをやめただけの意志と意味があるように感じます。

 

この配信で驚いたのは「月ノ美兎じゃなかった時間について月ノ美兎が話していた」ことです。雑談のネタを作るでもなく懐かしい友達と会って、行きたい場所に行って、食べたいものを食べる。意識的に月ノ美兎から離れて過ごしていた時間があったことを月ノ美兎が話す。「ふつうの女の子に戻ります」と言って辞めるのではなくて、ふつうの女の子に戻ったり戻らなかったりする。

このような吐露を受けると、委員長が1stシングルのカップリングにセラニポージ『ありふれた毎日の歌』のカバーを選んだ、という事実が今まで以上に響いてきます。

曲の主人公は、大きなお城の中で目覚めて、庭で野バラを摘んで、ドレスを着て、夜には眠るお姫様。「バーチャルYouTuberを始めてからずっと同じ家にいるんですよ」「場所性に囚われないバーチャルYouTuber、なんと一番場所性に囚われてるという……

お城の門番はなぞなぞを出して「答えを当てたらここを開けましょう」と言いますが、それに対してお姫様が思うのは

私はただのカゴの中の小鳥

外へ出たらきっと泣きたくなるわ

答えは知ってる 言えないだけ

ということ。

きっと委員長もお城を出る答えは知っていて、言うべきなのか、いつ言うのか、言ってどうなるのか、そのような懊悩を抱えているんじゃないかと思います。勝手に思ってるだけですが、「ひょっとしてお城の中で一生暮らすつもりなの?」でも我々だってそうですからね……。

委員長がカバーするにあたって冒頭部分の伴奏が8bitサウンドで新たに書き下ろされています。あのファミコンみたいなピコピコ音ですね。そこから流麗なハープのグリッサンドで生楽器にバトンタッチする編曲はまさにバーチャルからリアルへの転換に重なって、ああ全部わかってやっているんだ、とすら思います。「今回の休止はあくまで『やりたいことリスト』を消化するためで、配信で話すのとは切り離して……つっても今日体験レポ作って来ちゃったんですけどね」!

 

一連の流れを振り返って改めて思うのは、委員長ってバーチャルと同じくらいリアルのことを愛しているんだろう、ということです。

「一緒に精一杯この世を生きましょう」って大袈裟な冗談のつもりだったらしいですが、紛れもなくバーチャル世界から現実を眼差してますね。バーチャルとリアルのどちらかに軸足を置くのではなく、境界を跨ぐ形で立っている。この2週間ってつまりその重心の均衡を取り直す期間だったんじゃないでしょうか。

煙に巻かれること無く話された「月ノ美兎から離れて過ごした時間があった」というリアルは、そのリアルさ故に我々の心の最深部に共鳴し、またその「月ノ美兎じゃなかった時間」に垣間見える現実への愛着は、そのまま我々の暮らしにも投射されます。これは今回に限らず過去の体験レポとか、ご学友とのエピソードとか、ずっとそうですね。

そして、どうやら月ノ美兎さんが愛しているっぽいそんな現実のことを私も好きになってみようと思う、そう思えたならば、それってこの上ないほどバーチャルアイドルだと思います。二次元の人が三次元の話をするまどろっこしい行為の意味は少なからずそこにある。「大きなお子さんたちを沼から救います」って、本当にそう。

アイドルで、ヒーローで、そしてなによりふつうの人間だからこんなに救われてるんだと思います。4年目に入ったこれからも、どうか健やかであってほしいと願うばかりです。「いつか浮かんで宇宙まで」!